Dクラスパワーアンプ...page.1/4


ここで製作するパワーアンプ回路は、次の製作コンテンツ「パワーアンプ付き電子ボリューム」の一部になります。
製作が複雑になるためパワーアンプ部だけを単体でコンテンツにしました。

はじめに...

オーディオパワーアンプのファイナル段の動作には主に、A級、AB級、B級及びD級があります。
A級、AB級、B級はファイナル段のバイアスの違いによるものでリニアアンプです。中でも真のプッシュプル動作を行なうA級アンプについては高級オーディオアンプとして知られています。

D級アンプは、A級、AB級、B級などバイアスの違いではなく、PWM信号(パルス波形)に変換して、ON/OFF信号を扱うスイッチングアンプです。
ON/OFFの2通りの動作になり、ファイナル段の能動素子は原理的に損失がないため電源利用率が高いのが特徴です。

D級(Dクラス)アンプの動作についてはWeb検索して下さい。また、チョッパ制御やインバーター回路についても調べると理解が深まるでしょう。

今回は、DクラスパワーアンプICを用いて、簡単なオーディオパワーアンプを作ってみます。



概要

TI社(テキサス・インスツルメンツ)のDクラスパワーアンプIC:TPA3122D2を用いました。
TPA3122D2は数あるDクラスオーディオパワーアンプICの中で、アマチュアが扱いやすいDIP品(DIP20ピン)です。
電源電圧は10V〜30Vと範囲が広く、出力は5W以上でパワフルです。2回路分のアンプを内蔵しているので1個でステレオアンプが出来上がります。

今回はデーターシートの回路定数のまま作りました(一部抵抗を追加)。
また、ケースに入れずに回路基板の製作まで掲げることにし、次の製作に掲げる「パワーアンプ付き電子ボリューム」の途中であることを意味します。



回路図




回路定数

入力カップリングコンデンサ:C1、C2
入力回路の直流的な動作点を狂わせないようにオーディオ信号(交流信号)だけ通過するように接続するコンデンサのことを一般に入力カップリングコンデンサと呼びます。
このコンデンサの容量とICの入力抵抗により通過する周波数(カットオフ周波数)は次式で決まります。

カットオフ周波数:fc〔Hz〕=1/(2π・C・R)

ところで、TPA3122D2の入力抵抗はゲインの設定により変化します。それを下表に記します。

GAIN1(14ピン) GAIN0(15ピン) ゲイン 入力抵抗
Lレベル Lレベル 20dB(電圧比10倍) 60kΩ
Lレベル Hレベル 26dB(電圧比約20倍) 30kΩ
Hレベル Lレベル 32dB(電圧比約40倍) 15kΩ
Hレベル Hレベル 36dB(電圧比約63倍) 9kΩ


今回はゲインを20dBにしましたので、入力抵抗は60kΩになります。
入力カップリングコンデンサを1μFとしたので、カットオフ周波数は約2.7Hzとなります。
ここは電解コンデンサでも問題ないと思いますが、IC側にDCバイアスが掛かっており動作点の狂いを少なくするためにも、漏れ電流に勝るフィルム系がいいかも知れません。


IC内部に関わるコンデンサ:C3、C4
TPA3122D2内部の各種基準回路に接続されるコンデンサになります。
ここはIC内部に関わる部分になるのでデータシートに従って、セラミックコンデンサの1μFとします。
尚、C3については、入力カップリングコンデンサ:C1、C2と同容量にすることでポップノイズに対して有効であるとされています。


デカップリングコンデンサ:C5、C6、C7、C8、C9、C10
電源ラインのノイズ除去、負荷電流の変動に伴う電源電圧の変動を抑える目的で電源ラインに接続するコンデンサのことを一般にデカップリングコンデンサ(またはパスコン)と呼びます。
このデカップリングコンデンサを怠りますと動作不安定や異常発振の原因となります。これは電子回路全般に言えることです。
パワー段(PVCC-L〜PGND-L間及び、PVCC-R〜PGND-R間)に接続するコンデンサ:C5、C6、C7、C8についてはパルスノイズ除去も含めて特性の異なる2つのコンデンサを接続するよう推奨されています。
C6、C7はパルス性ノイズ除去のため高周波特性に優れたセラミックコンデンサが推奨されており、IC近くに配置することとあります。
C5、C8は負荷電流変動に伴う電源電圧の変動を抑えると同時に瞬時の負荷電流のエネルギー源にもなり、大きな容量のコンデンサを接続します。更に、低ESRのコンデンサが推奨されています。
低ESRのコンデンサは理想コンデンサと言えますが、無闇に大容量のコンデンサを用いると電源回路からみると電源オン時は回路のショート状態と同じこととなり、今回電源として用いたACアダプターによっては保護回路が動作してしまう恐れがあります。
今回は手頃な470μF(2個)としました。

C9、C10はTPA3122D2内部のアナログ回路に関わるデカップリングコンデンサで、データシートには10μFで充分とあります。
パルス性ノイズ除去のため高周波特性に優れたセラミックコンデンサも抱かせます。

これらコンデンサはICの電源電圧範囲が10V〜30Vですから、最大の30Vで稼動することを想定し、耐圧35V以上のものを使います。


ブートストラップコンデンサ:C11、C12
ブートストラップ回路はパワー素子の利用率を高める付属回路です。
出力電圧とブートストラップコンデンサに充電される電圧を加算し、内部パワー素子のバイアス回路に利用されます。
ブートストラップコンデンサの振る舞いの説明は省かせて頂きます。
いづれにしても、PA3122D2内部に関わる部分なのでデータシートに従って、セラミックコンデンサ:0.22μF(耐圧25V以上)とします。


ローパスフィルター:L1、C13、L2、C14
4Ωのスピーカーを想定した時の定数にしました。これもデータシートに従っています。
8Ωのスピーカーが使えなくなるという意味ではありません。
どんなインピーダンスのスピーカーを接続するか判らなければ8Ω時の定数より、4Ω時の定数で仕上げた方がいいだろうと私は判断しました。


出力コンデンサ:C15、C16
このコンデンサの容量でスピーカーに与えるカットオフ周波数が決まります。
算出は入力カップリングコンデンサで記述した式と同じで、

カットオフ周波数:fc〔Hz〕=1/(2π・C・R)

となり、Rはスピーカーのインピーダンス(8Ω又は4Ω)になります。
今回は1000μFにし、4Ωスピーカー時のカットオフ周波数を約40Hzにしました。
8Ωのスピーカーを接続した場合は約20Hzになります。
4Ω時のカットオフ周波数を20Hzにするには2200μFにする必要があり、コストに影響してきます。


抵抗:R1、R2
シャットダウン端子、ミュート端子の、プルアップ、プルダウン抵抗です。

シャットダウン端子は、アクティブLOWになっており、Lレベル(0.8V以下)にすると、休止状態になり回路電流は1mA以下になります。
電源電圧を常に加えて電源ON/OFFさせるような使い方をする場合に利用します。
このシャットダウン機能を使うと最高のポップ音抑制になります。

ミュート端子は、アクティブHIGHになっており、Hレベル(2V以上〜Vcc)にすると、-82dBのミュートが有効になります。

抵抗:R1、R2で、シャットダウンOFF、ミュートOFFにしています。


抵抗:R3、R4
データシートに説明書きがありませんが、機能が似たDクラスアンプICによると、電源のOFF〜ON時のポップノイズの抑制のためと記述がありました。
電源OFFで出力コンデンサ:C15、C16に貯まった電荷を、スピーカーと抵抗:R3、R4で速やかに放電し、次回の電源ON時のポップ音防止回路に貢献するらしいです。


抵抗:R5、R6
ポップ音防止回路を用意することを前提に取り付けておきます。ポップ音防止回路は無くて構わないならば、R5,R6を接続する必要ありませんが、接続しておいても動作に影響しません。

この抵抗によりスピーカーに接続する前に、出力コンデンサ:C15,C16:1000μFの充電を済ませておきます。
560Ωとしたので時定数は0.56秒ですが、5倍の約2.8秒以上経過してからスピーカーを接続するようにします。
接続にはリレーを用います。

次ページの「部品の概要」と、最後のページの「ポップ音について」を必ず読んでおいて下さい。



次のページから、パーツリスト・パーツ説明・作り方など私なりに詳しく記述しますね。


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