CR型トーンコントロール設計法

NF型トーンコントロール(以下TC)の設計法については「ステレオアンプ」のページで記しましたので、ここではCR型TCの設計について記述します。
NF型TCでは増幅器のNFループ内に周波数特性を持たせたもので低域又は高域をカットする場合はNF量が増え、ブーストする場合はNF量が減少するために歪み率も変化してしまいます。
特にブーストしてNF量が減少し歪み率が増加するのは意に反しているでしょう。

CR型TCはCRのみで構成しているために素直で自然な音質が得られるお奨め回路といえます。
NF型TCでは使用するボリュームにBカーブのものを使うので機械的な中心位置でフラットな特性が得られますが、CR型ではAカーブのボリュームを使うために機械的な中心位置でフラットな特性が得られにくいという不具合はありますが、これについては設計法を知ることで充分克服できます。
CR型TCの構成を下図に示します



CR型TCではボリュームにAカーブのものを使います。
Aカーブは抵抗の変化とボリューム軸の回転角度が指数関数型で聴感上自然な変化が得られます。
トーンコントロール回路ではボリュームのツマミを中央にしたときにフラットな特性とするのが慣例です。
もし、Bカーブ(直線変化型)のボリュームを使って設計してしまった場合を考えてみましょう。
ボリュームのツマミを中央にしたときにフラットとするならば低音・高音のブーストは最大でも+6dBしか得られません。
また、低音・高音をカットする場合の変量はブーストする場合よりも大きくなりすぎます。

設計するに当って、重要となるパラメータは使用するAカーブのボリュームの機械的中心位置における抵抗の比率です。
最上部の図のトーンコントロール基本図では、VR1a:VR1b(VR2a:VR2b)です。

下図で、あるAカーブボリュームの抵抗変化量のグラフを見てみて下さい。機械的中心位置50%での抵抗変化量は約84%:16%になっていることが判ると思います。
このグラフのボリュームを使う前提で設計してみましょう。



ここで係数として係数Kを求めます。係数Kは次式で求めておきます。

係数K=84/16=5.25・・・・・式(1)

この係数KによってCR型TCでの伝送損失が決定されます。その伝送損失は次式で求まります。

伝送損失=20log10(1/K+1)・・・・・式(2)

この損失分は別にアンプを設けて補正するか、アンプ全体のゲイン配分を検討することになります。

次に、ボリュームが機械的中心位置にあるときに周波数特性がフラットとなる条件を記述します。



高音調整でVRが中心位置で周波数特性がフラットになる条件は・・・VR1a:VR1b=C2:C1=R1:R2=K・・・・・式(3)

低音調整でVRが中心位置で周波数特性がフラットになる条件は・・・VR2a:VR2b=C4:C3=R1:R2=K・・・・・式(4)


次に変化特性式を示します....

高音最大状態のゲイン=20log10(((2πf・C1・R1・R2)+R2)/((2πf・C1・R1・R2)+(R1+R2)))・・・・・式(5)

高音が上昇する周波数=1/(2π・C1・R1)・・・・・式(6)

高音最小状態のゲイン=20log10(R2/((2πf・C2・R1・R2)+(R1+R2)))・・・・・式(7)

高音が下降する周波数=1/(2π・C2・R2)・・・・・式(8)

低音最大状態のゲイン=20log10((VR2・R2)/(R1+VR2+R2))・・・・・式(9)

低音が上昇する周波数=1/(2π・C4・R2)・・・・・式(10)

低音最小状態のゲイン=20log10(R2/(R1+VR2+R2))・・・・・式(11)

低音が下降する周波数=1/(2π・C3・R1)・・・・・式(12)


ブーストとカットの量を同程度とする条件は...

R1=(K・VR2b)/(K−1)・・・・・式(13)

R2=VR2b/(K−1)・・・・・式(14)


以上の、式(1)〜式(14)を展開して個々の定数を決定して設計するのです。


では...

高音調整で上昇(下降)し始める周波数fHを(3KHz)3000Hz(お奨め値)
低音調整で上昇(下降)し始める周波数fLを400Hz(お奨め値)
使用するボリュームはAカーブの50KΩを使用で機械的中心では85%:15%

を条件に実際に設計してみましょう。


係数Kは式(1)により、係数K=85/15=5.7

R1は式(13)により、(K*VR2b)/(K-1)=(5.7×7.5)/(5.7-1)=9.09=9.1KΩ

R2は式(14)により、VR2b/(K-1)=7.5/(5.7-1)=1.59=1.5KΩ

C1は式(6)により、C1=1/(2πf・R1)=159/(fH〔Hz〕*R2〔KΩ〕)=159/(3000*9.1)=0.005824=0.0056〔μF〕

C2は式(8)により、C2=1/(2πf・R2)=159/(fH〔Hz〕*R2〔KΩ〕)=159/(3000*1.5)=0.0353=0.033〔μF〕

C3は式(12)により、C3=1/(2πf・R1)=159/(fL〔Hz〕*R1〔KΩ〕)=159/(400*9.1)=0.0437=0.047〔μF〕

C4は式(10)により、C4=1/(2πf・R2)=159/(fL〔Hz〕*R2〔KΩ〕)=159/(400*1.5)=0.265=0.22〔μF〕

になります。
条件を基に設計し終わった回路は下図のようになります。

R3は高音調整と低音調整の干渉を防止する目的で入れる場合がありますが無くても全く支障はなく、神経質な場合はf特をみながらカットアンドトライします。ただし、R3の有無による音質の差は判別できないと思われます。



CR型TCはローインピーダンスで信号を加えないと期待通りの特性は得られませんから入力には音量調整などのボリュームを設けることはせずに、エミッタフォロワやオペアンプによるボルテージフォロワを設置します。
CR型TCは過大入力に対して弱く、歪が悪化しますので前置増幅はお奨めできません。下図のようにボリューム調整の後にバッファを介してトーンコントロール回路に接続する方法がお奨めです。

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