プッシュスイッチによるトグル動作

デザイン性に優れて軽い操作のプッシュスイッチで、電源のON/OFFを実現する回路を作ってみました。
マイコンを使わず、トランジスタ回路で構成しました。

プッシュスイッチは押下している時だけ接点が閉じるモーメンタリタイプを使います。
小さなタクトスイッチも使えるよ。

負荷オフ時は無駄な電流は一切流れないので乾電池を使ったセットにも使えます。
掲げた実用回路にて4V〜28V(私の電源装置の最大出力電圧が28V)の間で問題なく安定した動作になったことを報告しておきます。

この回路は説明回路からマスターしていないと理解に苦しむので、少しずつ説明します。


図1の説明回路は、左側の入力(+Vin)に電源を加えただけでは、右側の出力(+Vout)に電源を供給させることはできません。
しかし、トランジスタTr2を何らかの要因で一旦オンさせればTr1がオンし、負荷側がオンします。
負荷側がオンすると抵抗R3を介してTr2のベース電流が流れるので負荷側はオンしたままになります。

また、Tr2を強制的にオフすると、負荷側もオフします。
負荷側がオフするとR3によるTr2のベース電流が流れないので負荷側はオフしたままになります。


【図1】


抵抗R1は負荷がオフ状態にあるときTr1のBE間を同電位にさせ確実にカットオフさせる抵抗です。

抵抗R2はTr1のコレクタ電流を制御するもので負荷電流/hfeのベース電流より多く流すよう設定したいところです。
ただし、極端に小さな抵抗値にするとTr1が破損したり、Tr2の発熱の原因になります。1.5KΩ〜4.7KΩの範囲で問題ないと思われます。

この回路による電圧降下はTr1の諸特性と負荷電流によりますが0.05V〜0.3V程度になりましょう。



図2はコンデンサによって、Tr2をオンしたりオフさせる説明回路です。


【図2】


コンデンサC1が充電されていた場合に、SWを押下するとTr2のベース電流が流れTr2はオンします(C1の放電はR4を通じて行なわれます)。
Tr2がオンすることでTr1もオンし、負荷側がオンしてR3によりTr2のベース電流は継続して流れ、負荷側のオン状態が続きます。

コンデンサC1が放電状態で、SWを押下するとTr2のベース電位はエミッタ電位と同電位となりTr2がオフします。
Tr2がオフするとTr1もオフし、負荷側がオフします。R3によるベース電流も流れなくなり、負荷側はオフしたままになります。

抵抗R4は充電されたC1が接続されたときTr2のBE間に過大な電流が流れないようにするためのものです。この抵抗は省けません。



少し現実的に考えてみます...


【図3】


図3は図2の回路にR5とC2を加えた説明回路です。

図2の回路において負荷側がオフしていると、Tr2のベース端子はフロートに近い状態でノイズの影響を受けやすくなります。
ノイズによりTr2のコレクタが流れ、勝手に負荷側がオンしてしまうことがあります。

事実、SWの配線が長い場合はスイッチの金属部に触れただけでオンすることがあります。

そこで、R5により入力抵抗を低くしノイズの影響を避けています。
C2はパルス性ノイズ混入による誤動作を避けるもので、C1より充分に小さな容量のコンデンサを用います。



実回路に応用した場合、もうちょい現実的に考えてみます...

負荷をオフしようと、放電されているC1によりTr2をオフすれば、負荷側は本当にオフするのか?
いいえ、Tr2(Tr1)はC1によって一瞬だけオフしますが、再びオンしてしまいます!

これは現実の回路はデカップリングコンデンサなどにより電源を遮断しても電源電圧は急速に0Vにならないからです。
この残っている電圧によってR3を介して再びTr2をオンさせてしまうのです。


【図4】



図5は実回路のデカップリングコンデンサ等(Cx)の影響を避ける説明回路です。ダイオードを接続することで実現できます。
ただし、ダイオードによる電圧低下(約0.5V〜0.75V)は避けられません。最小限に抑えるにはショットキーバリアダイオードを用いるといいでしょう。


【図5】




図6が基本実用回路です。回路の他、記号や部品定数も記述しているので複雑にみえてしまうかも知れません。
この回路による負荷電流はTr1とR2により決定し、掲げる定数ではせいぜい100mA程度です。


【図6】



動作説明・・・

【入力電源接続時】 入力に電源を接続するだけではR3に電流が流れないのでTr1〜Tr3は自力でオンすることはできません。
電源側からみるとC1とR6とR7の部品だけであり、C1の充電が完了すれば無駄な電流は一切流れません。

【電源オン動作】 電源をオンしようとプッシュスイッチを押下します。
C1に充電された電荷によりR4を通じてTr2のベース電流が流れてTr2がオン(Tr1もオン)し、負荷側に電力が供給されます。
プッシュスイッチを放してもR3を通じてTr2のベース電流が流れるので負荷側の電力は供給され続けます。
同時にTr3もオンしてR7を介してC1を放電するよう動作します。

プッシュスイッチがチャタリングを起こしてもR4とC1の時定数により直ぐにC1が放電されませんので動作に影響しません。
(Tr3がオンしてC1を放電するよう動作しますが時定数は、R7・C1>>R4・C1なので問題ありません)
激しくプッシュスイッチを連打しても異常なきことを確認しました。

意地悪して、負荷側の電源がオンしたにも関わらずプッシュスイッチを押下し続けた場合はどうでしょうか?
この場合の回路は下図の通りで、R5にR7が並列になってもC点の電位はトランジスタがオンできる約0.6V以上のためTr2がオフすることなく、負荷側の電力は供給され続けます。



【電源オフ動作】 電源をオフしようとプッシュスイッチを押下します。
C1はTr3によりR7を介して放電されていますから、プッシュスイッチを押下するとTr2のBE間が一瞬同電位となりTr2がオフ(Tr1もオフ)し、負荷側をオフします。
するとR3を介してのベース電流が流れなくなり負荷側の電力供が継続遮断します。

Tr3もオフして今度はC1を充電する動作に移行します。

スイッチがチャタリングを起こしてもC1がTr2をオンできる電位(約0.6V)まで充電させるには時定数(R6+R7とC1)があるので影響しません。
激しくプッシュスイッチを連打しても異常なきことを確認しました。

意地悪して、負荷側の電力供給が遮断したにも関わらずプッシュスイッチを押下し続けた場合はどうでしょうか?
この場合の回路は下図の通りで、R6の抵抗値が非常に高くC点の電位はトランジスタがオンできる約0.6Vには達しません(入力電圧が50VでもC点の電位は約0.22Vです!)。
また、SWの接点を開放しない限りC1の充電は行なわれませんで押下し続けても負荷がオンすることはありません。


【低電圧動作】 入力元に乾電池を使った場合を考えてみます(動作確認済み)。
冒頭で当回路の動作確認は、4V〜...で安定動作と記述しましたが、これはTr2のコレクタ電流でTr1を充分にドライブできる最低電圧と勝手に判断しています。
負荷に少ない電流で点灯するLEDを接続した場合は2.25V以上あれば正常動作(Tr1に2N3906、Tr2に2N3904)することを確認しました。

いったい何ボルトの入力電圧でスイッチが使えなくなるのかといいますと、R3とR5による分圧でC点の電位が約0.6V(トランジスタによってバラツキあり)まで低下してきた時にTr2のコレクタ電流が流れなくなりTr1がカットオフして負荷への供給が止まります。

Tr1に2N3906、Tr2に2N3904を使った場合、2.25V未満で負荷への供給が止まりましたので、この時はTr1のドロップアウトが0.15V(負荷電流は約2mA)でしたからC点の電位は0.67Vと算術できます。

それでもC1には2.25Vの充電圧があるので、プッシュスイッチを押下すると一瞬だけTr2がオンして負荷へ電力を供給しようと動作をします。

ACアダプター(5V〜)を使用するならば電圧低下はないので問題ないでしょう。図8、図9の回路を試して下さい。



図7は図6と比較してダイオード:Dの接続位置を変更したものです。


【図7】


電源をオフ後、負荷側の電位はデカップリングコンデンサ等によりゆっくり低下します。
このとき電源の残留電位がリセットレベルまで低下してから電源投入をしたいところでしょう?
そうしないと期待できる再起動が望めないこともあるでしょう?

それを実現した回路が図7です。
電源をオフしても、負荷側の電位が残っている期間はTr3がオンしているのでC1は放電する動作を継続していますから、Tr3がオフしてC1が充電されるまで電源をオンすることはできません。



図8と図9が実用回路になります。
プッシュスイッチによるトグル動作回路を単体で動かしてリレーやパワートランジスタを駆動することで、図6や図7のダイオードによる電圧降下を気にしないで済みます。

図9においてはTr5にダーリントン接続にすることで大きな負荷電流の制御も可能になりましょう。
尚、図9ではTr3とTr4のベースを共通にして2本の抵抗を省略できるのでは?と思われますがコレクタ電流が異なることと、同じトランジスタでもVbeにはバラツキがあるので止めて下さい。


【図8】




【図9】





プッシュスイッチ(モーメンタリ)は、外観で負荷の電源がオンしているかオフしているか判断できませんので、負荷側にはLED等によるパイロットランプを設けることを勧めます。

また、Tr2のベース電位をマイコンで制御することで、プログラムにより動作中からシャットダウン(Tr2のベース電位をローレベルでシャットダウン)させることもできましょう。
この場合はオープンコレクタ又はオープンドレインで制御して下さいね。

図6〜図9に掲げた回路は、図6による部品定数を基本に、入力電圧4V〜28V(私の電源装置の最大出力電圧が28V)で良好な動作になることを確認しました。

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