オペアンプを使ったヘッドホンアンプ...page.1/6


はじめに...

インピーダンスが16Ω〜約100Ω程度のヘッドホンを充分駆動できるヘッドホンアンプを作ってみました。
ボリューム付きでCDプレーヤーやチューナーなど様々な音楽ソースに接続できます。

またポータブル音楽プレーヤーなど低電圧で動作する回路では充分な音量で音楽が楽しめるように8Ω(オーム)〜32Ωなどローインピーダンスのタイプが目立っており、40Ω以上あるハイインピーダンスのヘッドホンで聴くと何となく音量が小さくなる傾向がありますが、当アンプを間に入れることで充分な音量で音楽を楽しむことができます。



概要

プッシュプルエミッタフォロワー回路やA級動作などの回路で作りたいところですが、作りやすさでオペアンプのみでヘッドホンを駆動することにしました。

ただし、ドライブ能力を上げるためにテキサスインスツルメントのアプリケーションノートの回路を真似しました。
オペアンプ1個だけでヘッドホンを駆動する場合と比較すると、大音量時のクリップ感に大きな差がありました。
この回路によりヘッドホンの駆動能力が向上したため、アクセサリー回路として「ローブースト回路」を付加しました。
ローブースト回路を有効にすると迫力と臨場感のある音楽が楽しめます。

電源は正電源と負電源の2電源方式としました。
2電源方式とすることで回路が簡単になります。また、低域特性の向上も図れます。
もし1電源方式とするとオペアンプのバイアス電位の生成や、仮想グランドの生成などで回路は複雑になります。



回路図







R1 1KΩ(金属皮膜) C1 2.2μF(フィルム系)
R2 22KΩ(金属皮膜) C2 0.1μF(フィルム系)
R3 2.2KΩ(金属皮膜) C3,C4 470μF(オーディオ用電解)
R4 10KΩ(金属皮膜) IC-a,IC-b NE5532
R5 27KΩ(金属皮膜) VR 2連10KΩ(Aカーブ)
R6,R7 47Ω(金属皮膜) SW1,SW2 2回路トグルスイッチ
R8 22Ω(金属皮膜) BATT1,BATT2 1.5V電池4本(6V)
R9 4.7KΩ LED ブラケット入り




回路の説明

オペアンプはバイポーラOPアンプを使用した非反転増幅としました。
オペアンプの基本的な使い方、諸特性、非反転増幅回路、反転増幅回路、ボルテージフォロワ、ディファレンシャルアンプなどは書籍で勉強してみて下さい。


入力のボリュームの抵抗値はいろいろな音楽ソースに対応できると考え、10KΩとしました。
ボリュームでは必ずAカーブのものを使って下さい。Bカーブのものを使いますと音量調整がしにくくなります。


R1は、配線の這い回しによりボリュームを絞ったときの異常発振防止で挿入しました。


R2は、オペアンプのバイアスで入力抵抗となります。
オペアンプ自身の入力抵抗は数100KΩと高いので実質、ここの抵抗値が入力抵抗とみていいでしょう。
この抵抗は大きすぎるとオフセット電流の影響が大きくなります。また、回路としては入力抵抗は大きくしたいところです。
ここはC1のカップリングコンデンサと合わせて22KΩと致しました。

尚、下図のようにオペアンプの入力端子をボリュームに直接接続すると簡単に済みますが今回は避けて下さい。
これはヘッドホンをコンデンサなしで直結回路にしたことで、万一、ボリュームの配線ミスや、使用中の断線が起った場合に、ヘッドホンに過大な電圧が掛かってヘッドホンの破損を防ぐためです。





C1はカップリングコンデンサです。
なくても動作しますが、接続する機器の出力に万が一、直流成分が乗っていると回路の動作点が狂うために、安心の意味で挿入しました。
このコンデンサを省くことは私はお勧めしません。
カットオフ周波数(減衰を始める周波数)は、C1とR2によって、おおよそ次式で求まります。

カットオフ周波数=1/2πCR 〔Hz〕

回路では2.2μFと22KΩとしたので約3.3Hzとなります。
このカットオフ周波数は低いほど望ましいのですが、これはC1のコンデンサのコストに大きく影響します。
低予算の場合はC1を1μFとしてカットオフ周波数を約7.3Hzとしてもいいでしょう。


R3とR4は帰還回路で仕上がりゲイン(電圧増幅率)を決定します。仕上がりゲインは次式で求まります。

増幅率=(R3+R4)/R3 〔倍〕 又は 20log10(R3+R4)/R3 〔dB〕

回路では2.2KΩと10KΩを使って増幅率は約5.5倍(14.8dB)としました。
この程度の増幅率ならばコンポのチューナーなどに接続しても充分な音量で音楽を楽しめます。
ところで帰還回路の2.2Kと10KΩは増幅率を同じにするならば、22KΩと100KΩでも同じことですが、この部分の抵抗が大きいとオフセット電流の影響が大きくなります。また、220Ωと1KΩなど極端に小さくしてしまうと負荷として作用してしまいます。


IC-bとR6、R7はテキサス・インスツルメンツのアプリケーションノートにあるオペアンプによるヘッドホンアンプ回路になります。
私はこの回路をそのまま使うことにしてみました。
オペアンプ1個だけでヘッドホンを駆動する場合と比較すると大音量時の低域のクリップ感に大きな差がありました。
その効果は絶大で、すごく気に入ってしまいました。


この効果を活かし、アクセサリー回路として「ローブースト回路」を付加しました。
「ローブースト」を利かせると低音が豊かで臨場感を増して音楽を楽しめます。
ローブースト回路はR5、C2、SW2となります。設計例は下部を参照して下さい。
尚、ローブースト回路が不要の場合はR5(C2)をバイパスして下さい。


R8はリンギング、異常発振防止の目的で挿入しました。
ここでは22Ωとしたので、インピーダンスが22Ωのヘッドホンで効率良く電力供給されます。
ただし、100ΩのヘッドホンではR8を100Ωにしなければならないという意味ではなく、今回の場合は、あくまでもリンギングや異常発振防止の為になります。
この抵抗を省くことは私はお勧めしません。


電源回路は出力を直結としたので2電源で稼動させます。
電源スイッチはプラス電源とマイナス電源を同時にON/OFFさせる必要があります。

回路は±4.5V〜±15Vで正常動作し、今回は電圧は乾電池(1.5V)を8本使って±6Vとしました。
経済的余裕があれば乾電池(1.5V)を12本使って±9Vで稼動することを強く勧めます。


回路電流は使うオペアンプによりますが無信号時で10mA〜20mA程度です。
音楽を楽しむ時だけ、こまめに電源ON/OFFしていれば電池はとても長持ちします。
ローブーストを利かせたり、大きな音で歪みが感じられるようになったら電池の交換時期です。

当回路をACアダプターなど外部電源で稼動させる場合は、別途オペアンプとバッファ回路などを使って2電源を生成して下さい。



ローブースト回路の設計法

ローブースト回路とはスピーカーシステムの低域減衰を補うためのオーディオ回路におけるアクセサリー回路です。
これをヘッドホンアンプに用いることで小音量時でも低音の豊かな、臨場感ある音楽再生が望めます。

定数の設計法を下図に示します。







ローブースト回路では、増幅段入力に設けるCRパッシブフィルターと、帰還回路に周波数特性を設ける方式があります。
信号の減衰(減衰が少ない)や作り易さから、後者による設計法を説明いたします。

上図において、ローブースト回路の低域ゲインはフラットよりも+8dB〜+15dB、ブーストを始める周波数に70Hz〜200Hzに設定すると、とてもフィーリングのよい効果が得られます。

ブーストを始める周波数を300Hzや400Hzなど高くすると、より効果がありますが、これは貴方が実験をして確認して下さい。

SWがONでローブースト回路が無効(フラット)、SWがOFFでローブースト回路が有効となります。


・フラット時のゲイン=20log10((R1+R3)/R3) 〔dB〕

・低域の最大ゲイン=20log10((R1+R2+R3)/R3) 〔dB〕

・ブーストを始める周波数=1/(2πCR2((R1+R3)/(R1+R2+R3))) 〔Hz〕


今回作る回路では、ブースト量は約10dB、ブーストを始める周波数は約189Hzになるか関数電卓で計算してみて下さい。


ところで、+10dBのブーストは、例えばフラットのときに1Wの出力で音楽を楽しんでいる場合に、ローブーストを有効とすると10Wの出力を要することになります。
すなわち、出力に相当な余裕がない場合でローブースト回路を有効にすると低域の歪みが大きくなります。
このことを考慮して回路を設計するべきでしょう。

また、上図のローブースト回路を構成する部分(CとR2及びSW)はR1と入れ替えても動作は同じですが、図のように出力側にレイアウトした方がノイズの点で有利です。
これは出力側の方が一般に低インピーダンスのためです。

機会があれば、その他の回路に応用してオリジナルサウンドを創ってみて下さい。


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